50代を迎えて突然言い渡された、本州から沖縄・那覇への転勤内示。飛行機が那覇空港に着陸し、ターミナルを出た瞬間に全身を包み込んだ猛烈な湿気と熱気を感じたとき、僕の胸を占めていたのは南国生活への期待ではなく、「この年齢で全く知らない土地に一人で放り出され、無事に暮らしていけるのだろうか」という強い不安でした。

職場の人間関係、言葉のイントネーション、スーパーに並ぶ見慣れない食材、そして本州とは全く異なる気候。あれから1年が経過した今、僕の生活は転勤前には想像もつかなかったほど激変しました。体重は72kgから60kgへと12kg減少し、休日は部屋にこもる代わりに、新都心公園を走り、首里の石畳を歩き倒す毎日を送っています。

今回は、移住ガイドのような一般的な暮らしの解説ではなく、50代の会社員である僕自身が那覇で1年間実際に暮らし、戸惑い、そして身体を動かしながら見つけ出したリアルな日常の記録をお届けします。

1. 最初に戸惑った「日本語の通じる異国」という現実

那覇に住み始めて最初に実感したのは、沖縄は国内でありながら、独自の文化と時間の流れを持つ「日本語の通じる異国」だということでした。

本州では当たり前だった「時間に追われる生活」のリズムを持ち込もうとすると、最初は激しい違和感に襲われます。スーパーのレジの穏やかな対応、職場の同僚たちの独特の距離感、そして何より年中暖かく、冬でも凍えることのない気候。当初は「早くこちらの生活に順応しなければ」と肩に力が入っていましたが、数ヶ月が過ぎる頃には、その急がない空気感が、東京で長年張り詰めていた僕の神経をじんわりと緩めてくれていることに気づきました。

単身赴任の寂しさは確かにありました。しかし、休日に一人で街を歩けば、国際通りの一本裏には古い路地が迷路のように広がり、首里へ登れば何百年も前の琉球王国の石畳がそのまま息づいている。この独特の風情に触れているうちに、「せっかく50代でこの街に来たのだから、自分の身体と生活を一から作り直してみよう」という前向きな気持ちが芽生えてきたのです。

2. 72kgの身体を変えた、沖縄の気候と食生活

那覇へ転勤してきた当時の僕は、過去最重量の72kgに達していました。運動習慣はゼロ、お腹周りには分厚い脂肪がつき、会社の階段を上がるだけで息切れする典型的な中年太りでした。

しかし、那覇での一人暮らしは、僕の食生活を根本から見直す最高のきっかけになりました。外食ばかりでは身体を壊すと危機感を持ち、地元のスーパー(サンエーやユニオン)に通い始めた僕を救ってくれたのが、沖縄ならではの食材でした。

  • 島豆腐の圧倒的な存在感: 本州の木綿豆腐よりも硬く、タンパク質が凝縮された島豆腐は、僕の自炊生活の中心になりました。ご飯の量を減らし、島豆腐と野菜をたっぷり入れた味噌汁やチャンプルーを作ることで、空腹に苦しむことなく自然と「腹八分目」を維持できるようになりました。
  • 年中外で身体を動かせる環境: 本州の冬のような厳しい寒さがない那覇では、季節を問わずウォーキングやジョギングを続けられます。もちろん真夏の暑さは過酷でしたが、夕暮れの新都心公園や早朝の涼しい時間帯を選べば、1年を通じて運動習慣を途切れさせずに済みました。

その結果、半年間で60kg(-12kg)の減量に成功し、今では2026年12月のNAHAマラソン初完走を目指すまでになりました。那覇への転勤がなければ、僕は今でも72kgの重い身体のまま、不健康な日々を嘆いていただけだったはずです。

3. 50代の一人暮らしで僕が大切にしている「3つの距離感」

単身赴任生活を健康に、そして心穏やかに過ごすために、僕がこの1年で学んだ大切な教訓があります。

  1. 無理に人脈を広げようとせず、「一人時間」を愛する: 職場の飲み会や地域の輪に無理して飛び込もうとせず、休日は自分のペースで走ったり、静かなカフェで読書をしたりする時間を大切にしました。この適度な距離感こそが、ストレスを溜めない防壁になりました。
  2. 身体の違和感を放置しない: 50代の身体は本当に壊れやすいです。ランニングで膝を痛めたときもそうでしたが、「このくらい大丈夫だろう」という過信を捨て、痛んだらサポーターを巻き、歩きに切り替える柔軟性を持つようになりました。
  3. 街の風景と対話しながら歩く: 車やモノレールに乗れば一瞬で移動できる距離も、あえて自分の足で歩く。首里の急な階段や、牧志の静かな路地裏を歩き倒すことで、街の息遣いを肌で感じ、単身生活の孤独が豊かな充実感へと変わっていきました。

4. まとめ:那覇の街が、僕の人生をもう一度軽くしてくれた

内示を受けた日の不安と戸惑いから、あっという間に過ぎ去った1年間。今振り返ると、那覇という街は、仕事と加齢に追われて凝り固まっていた僕の身体と心に、「もう一度人生を軽くするチャンス」をくれたのだと感じています。

膝や足首の痛みに悩み、走れない日もあります。それでも、夕暮れの心地よい海風を感じながら新都心公園を走り、疲れたら路地裏のカフェで足を休める。この泥臭くも愛おしい日々を大切に積み重ねながら、これからも那覇の街とともに、NAHAマラソンのゴールを目指して一歩ずつ歩みを進めていきます。